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残酷・異常・虐待物語 元禄女系図

1969年、東映京都。石井輝男監督。吉田輝雄主演。

そろそろ異常性愛路線映画も取り上げてみようかなあと思い、とりあえず、この作品からお届けしますです(詳しい情報は、こちら)。

橘ますみたんにとって、3本目の石井監督作品。
『徳川女刑罰史』と同じく、3話オムニバス構成の映画で、ますみたんは第1話に登場、悪い男にだまされて、岡場所から吉原へ売り飛ばされて妊娠、果ては男恋しさに脱走した罪(大胆にも、大門のくぐり戸から逃げていました)で折檻の末に亡くなるという、ここでも不幸を絵に描いたような女・おいとを演じています。
ストーリー自体は取り立てて新味のないものですが、ますみたんの花魁姿や『明烏(明烏夢泡雪)』の雪責めを思わせる折檻の件は、一見の価値があります。
『徳川女刑罰史』から『徳川いれずみ師 責め地獄』まで、3作品の緊縛指導を担当した辻村隆も、「オイラン髷に長襦袢一枚、襟をはだけて、降る雪なかの(原文ママ)大樹に吊されているシーンは、さながら(伊藤)晴雨描く、雪中責めの図をホーフツとさせる美しさであった」(「SMカメラ・ハント 東映京都作品『元禄女系図』悦虐と耽美の構成」より)と、書き残しています。

ちなみに、本作の折檻場面では、弓折れでますみたんを叩いていましたが、実際には小刀で花魁の身体(売り物なので、着物を着ると隠れる部分)を突き刺す、なんてこともあったようです。
この映画では、さんざん打ち据えた後に、妊娠しているますみたんの腹部に漬物石(巨大)を落っことし、それがもとで彼女は命を落とすことになるのでした。
ついでに言うと、当時、妊娠した場合には、冷たい水に長時間浸かったり、水銀を飲んだりして堕胎したとか。水銀なんか飲んだら、母体もあの世いきですね、たぶん。

この場面の撮影では、縛られたときの痛みをますみたんがしきりに訴えて辻村隆を困らせた、なんていうこともあったようですが、結局は、石井監督の「ますみ、我慢しろよ。一番の見せ場なんだから」という鶴の一声で、ますみたんも「いいわ、我慢するから」と宣言、どうにか無事に撮り終えたのだとか。
ますみたんにしてみれば、『徳川女刑罰史』の拷問場面で失神寸前になったことが、トラウマとして残っていたのかもしれません。
いくら仕事(女優)だといっても、その方面の趣味もないのに縛られて吊るされるわけですからね。
それにしても、「ますみ、我慢しろよ」と、たった一言でますみたんの態度を一変させた石井監督って、天晴れというか何というか・・・・。

他に、第1話での見どころを取り上げてみると、CXの『オールスター水泳大会』を思い出させる裸の女騎馬戦(腋毛ぼうぼうもいました。処理する女性としない女性が混在していたのですね、まだ。60年代後半には)や、なぜか陰間茶屋から妓楼へ転職(色子から花魁になれるのか?)したカルーセル麻紀(モロッコ行く前)の見せたがりヌードがあります。
カルーセル麻紀は、ますみたんを苛める先輩花魁として登場、「岡場所じゃ、1朱の金で股を開いていたんだろ」などという、とんでもない罵詈雑言をますみたんに浴びせています。

あんたにそんなこと言われたくないよ。

第2話は、大店のお嬢様・おちせと、彼女に思いを寄せる手代・長吉の変態版『春琴抄』のようなお話。
初めて観たときはけっこうゾクゾクしましたが、2度目に観たら物足りなさが残りました。
終盤、醜い顔になれば愛してもらえると思った長吉が、焼火箸を自らの顔に押し付ける、そこまではよいのですが、その後の行動がいけません。
なんと、おちせまで、自分と同じ醜い顔にしてしまおうとするんですね。

奴隷の風上にも置けない奴です。

また、おちせもおちせで、そんな長吉を見て、さっきまでの強気な態度はどこへやら、「何でもあげるから、許して」ですと。

女王様なら、女王様らしく、気高く咲いて美しく散りましょう(『ベルサイユのばら』かよ)。

で、許してもらえなかったおちせは、長吉に殺されちゃうんですよ。がちょーん。

ここはやはり、醜い顔になった長吉が愉悦にわななくと、その一途な愛を知ったおちせが長吉をようやく受け入れ、そして痴情の果てに長吉がおちせに手をかけて、自分もその後を追う、という展開の方がいいなあ、と思うのですがね。

この後、長吉はおちせの死体を(『情婦マノン』のように)担いで葦原をさまようんですが、葵三津子たんが寒そーで寒そーで。さすがに屍姦場面はなかったけど(あったらヤバすぎか)。

第3話は、超サディストお殿様と真性マゾヒストの側室が、実は父子だったという、思わず嘔吐しそうな設定のお話。
見もの(?)は、妊婦の腹を麻酔もなしに切り裂いて赤子を取り出すという「無理やり帝王切開」(関白秀次の逸話が下敷きらしい)ですが、これに(一部では大変有名な)「バター犬」と「金粉責め」の場面が、サービス(?)で付いてきます。
「バター犬」(狆と獣姦)の場面では、賀川雪絵たんの身体にバターや練乳を塗りたくって狆を誘ったそうですが、実際の画面では狆はそっぽを向いたままで、『エロ将軍と二十一人の愛妾』の「バター犬」の方がずっとリアルでした。
冒頭の、村娘を馬で引きずって殺す場面や、酒池肉林の血まみれ闘牛場面もキョーレツです。
一番ひどい話ですが、一番面白いかも。

お殿様を演じる小池朝雄のテンションの高さには、ただただ脱帽です。どんなときでも冷静な町医者・吉田輝雄のテンションの低さと好対照をなしていて、それも笑えます。

付記:この映画、いちおう元禄(17世紀末~18世紀初)という設定になってはいますが、江戸中期から後期のこととしてご覧になった方がよいと思います。江戸の土地に、真の意味で江戸らしい文化が花開くのは、安永・天明期ごろ(18世紀後半~)のことです。1968年から69年当時、「昭和元禄」という言葉が流行していた、そこから取ったタイトルのようにも思えます。
by sen1818 | 2004-04-19 23:59 | 橘ますみ

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by sen1818